歌と歌手にまつわる話

(115) 夜は千の目を持つ The Night Has a Thousand Eyes

通称「夜千」というスタンダード曲があります。Buddy Bernier詞・Jerry Brainin曲(1948)の歌で、同名の映画のために書かれた歌となっています。映画の原作はウィリアム・アイリッシュ、William Irish(1903-1968)が1945年に書いた推理小説です。

しかし、映画の中では歌われていないという話をどこかで読んだ記憶があります。映画を見ていませんから、嘘か本当かわかりませんが、同じようなケースが他にもあります。映画の音楽はVictor Youngですから、この歌が歌われなかったという話はウナヅケます。

北陸放送の社長はプロも裸足で逃げ出すというテナーサックス・プレーヤーですが、今日の昼ごろ突然メールが来ました。

教えて! The night has a thousand eyes. の歌詞の内容、こんな事を言ってるのだ・・・位。

というリクエストです。

この歌はOZ SONSも歌っている歌ですから、歌詞は頭の中に入っています。どなたもご承知のことと思いますが、詞の翻訳とか大意を書くのは意外と難しいものです。

コルトレーンのアップテンポのキューバ風のアレンジのレコードがヒットして10年以上も後に知られるようになった曲です。歌のほうは実は聴いたことがありません。でも、自分達で歌っています。これを読んだカミサンは「Brazil 66で覚えた」といっていました。

さて、この歌の歌いだしは、

    Don't whisper things to me you don't mean.
    For words down deep inside can be seen by the night.
    The night has a 1000 eyes
    And it knows a truthful heart from one that lies.

    心にもない言葉を囁かないで・・・
    夜は心の奥底にある言葉まで見抜いてしまうから
    夜は千の目を持っているから
    真実のこもった心と嘘をつく心を見分けることができるのだ

てな歌詞が続きます。


John Coltrane

サスペンス映画「裏窓」はわれわれ世代には余りにも有名ですが、アイリッシュの短編をヒッチコックが映画化したものです。

ところが、1873年にイギリスの詩人Francis William Bourdillon(1852-1921)がLightというタイトルの詩を書いています。

Light

The night has a thousand eyes,
  And the day but one;
Yet the light of the bright world dies
  With the dying sun.

The mind has a thousand eyes,
   And the heart but one;
Yet the light of a whole life dies
   When love is done.   

かがやき

夜は千の目を持つとは、「千もの星」があるということです。
昼間は1つだけとは、太陽は1個だけだといっています。
太陽が死んでしまうと明るい世の中は真っ暗になってしまう。
    (だから、太陽はかけ甲斐のない輝きの根源と言いたいのでしょう)

人間の知性には千の目(知識や思考)があるが
心にはひとつの目(愛)しかない
愛がなければすべての命のかがやきは失せてしまう。

だから人にとって「愛」がなくてはならないものと言いたいのです。昔の人の比喩やたとえ話には味があります。今の人たちは衣も羽織らずストレートな表現しか出来ません。なんか薄っぺらいものです。・・・なんかいかんな・・・

この詩がこれらの作品(小説も映画も歌も)の原点にあるものに間違いないものと思います。なかなか奥が深い歌だったのです。(2010/3/31)


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